Daisuke Ishikawa
2022年度
二次元界面の集積膜を利用したウイルス由来マイクロRNA検出技術の開発
補助事業
(i)金ナノロッドの合成
キラルプラズモニックDNAペンチを構成する金ナノロッドのサイズには、固定する足場となるDNAペンチの長さ約60 nm、幅約21 nm以内という制限がある。そこで、最適なサイズの金ナノロッドを得るための各種試薬の設定濃度の検討を行った。表1の各濃度条件の下、金ナノロッドの合成を以下(1)、(2)の手順で行った。
(1)塩化金酸(HAuCl4)溶液をCTAB溶液と混合させ、Au(III)-CTAB溶液を作製した。氷冷した水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)溶液を、激しく攪拌しながらAu(III)-CTAB溶液に滴下した。2分間激しく撹拌した後に25 ℃で3時間恒温槽に静置した。これを金ナノロッド成長の核となる金シード溶液として用いた。
(2)CTAB溶液に、硝酸銀(AgNO3)溶液を加え、溶液を15分間静置した後、HAuCl4溶液を加えた。15分間ゆっくりと攪拌した後、L-アスコルビン酸溶液を添加し、溶液が無色になるまでゆっくり混ぜた。ここに、金シード溶液を加えてから10回上下転倒を行うことで撹拌し、25 ℃で24時間恒温槽に静置した。
上記の手順で合成した金ナノロッドの形状観察には、電界放出形走査電子顕微鏡(SEM、Hitachi S-4800、日立ハイテクノロジー社製)を用いた。
表1 金ナノロッド合成用試薬の濃度条件の検討
合成した金ナノロッドはSEMからそのサイズを評価した。表1の条件(1)–(8)で合成した金ナノロッドのSEM像を図1に示す。いずれの条件においても、合成した金ナノ粒子は棒状に結晶成長していたことを確認した。各作製条件における金ナノロッドのSEM像において、長さ(長軸)および幅(短軸)の計測を行った結果をSEM像と併せて図1に示す。
図1 合成した金ナノロッドのSEM像。(a)条件(1)、(b)条件(2)、(c)条件(3)、(d)条件(4)、(e)条件(5)、(f)条件(6)、(g)条件(7)、(h)条件(8)で得られた金ナノロッドを示す。ヒストグラムは金ナノロッドの長さ(上)と幅(下)の分布をそれぞれ表している。
(ii)十字型DNAナノ構造体の設計およびその作製条件の最適化
キラルプラズモニックDNAペンチの作製に用いたDNAオリガミとは、DNAの塩基配列がその相補鎖とのみハイブリダイゼーションするという特有の性質を活かしたナノ構造体形成手法である[1]。DNAオリガミによるナノ構造体設計は、caDNAnoというフリーソフトウェアを用いて誰でも実施することが可能である。そこで、設計したDNAペンチの熱力学的安定構造を、ウェブソフトウェアCanDoから予測し、設計を繰返した結果図3に示す構造を得た。
図3 DNAペンチの三次元構造。(a)DNAペンチの模式図。(b)DNAペンチのcaDNAno設計図とCanDoによるシミュレーション結果に基づく構造予測。
一般的に、DNAナノ構造体は加熱後の冷却過程における60–40 ℃の温度範囲において段階的に形成されることが知られている[3]。本研究では、上記の温度範囲におけるDNAペンチ形成に必要十分な冷却時間をアガロースゲル電気泳動から調査した結果、アニーリング過程における冷却速度は−1 ℃/ hが必要十分であると決定した。また、DNAナノ構造体形成において、DNA骨格のリン酸基に由来する静電反発を緩和するために、二価のカチオンが重要な役割を果たしている[4]。二価カチオン(Mg2+)の濃度が低い場合はDNAナノ構造体が形成されず、一方濃度が高い場合はDNAナノ構造体同士が凝集してしまうため、DNAナノ構造体を新規設計するごとにその最適な塩濃度を決定しなければならない。本研究では、Mg2+イオンと一価カチオン(Na+)の各濃度を変化させ、アガロースゲル電気泳動からDNAペンチの形成に最適な濃度を調査したところ、Mg2+濃度20 mMおよびNa+濃度10 mMが最適であると決定した。
(iii)疎水基修飾および金ナノロッド固定用1本鎖DNAの設計
DNAペンチへの疎水基修飾用および金ナノロッド固定用の1本鎖DNAの設計を行った。疎水基および金ナノロッドをDNAペンチに選択的に導入するための1本鎖DNAとして、正規直交配列を利用した。正規直交配列とは、23塩基数をもつ1本鎖DNAの集合であり、その相補鎖以外とは二重らせんを形成しないように設計された塩基配列である(図3a)[2]。この配列を利用することで、DNAペンチへの疎水基および金ナノロッドのそれぞれの修飾を、互いが干渉することなく実行することができる。正規直交配列はこれまでに37本報告されており、この中から本研究のDNAペンチを構成する1本鎖DNAと互いに干渉しないものを選定するため、3つの熱力学的計算を、ウェブソフトウェアNUPACKを用いて行った。
正規直行配列を選定するための3つの熱力学的計算では、正規直交配列37本(図4a)と導入箇所のステープル48本を連結した延長ステープルDNAのセルフフォールディング(分子内二重らせん形成)に要する最小自由エネルギーの算出、正規直交配列37本とスキャフォルドDNAを混合させたときの平衡時存在率算出、正規直交配列37本と全ステープル206本を混合させたときの平衡時存在率算出を行い、最小自由エネルギーの絶対値が小さく、また平衡時存在率の高い配列に順位を付けて選定した(図4b)。
その結果、DNAペンチに適した正規直交配列を5本選定して使用優先順位を付けた(図4c)。この中から順位の高い2本を疎水基の修飾と金ナノロッドの固定のそれぞれに使用して現在実験を進めている。
図4 疎水基および金ナノロッドの修飾に用いる1本鎖DNAの選定。(a)これまでに報告されている37本の正規直行配列。(b)正規直行配列を選定するための3つの熱力学的計算。(c)3つの計算結果から選定した5本の正規直行配列。
文 献
[1] Rothemund, P. W., Folding DNA to create nanoscale shapes and patterns. Nature 440, 297-302 (2006).
[2] Kitajima, T., Takinoue, M., Shohda, K. I., Suyama, A. Design of Code Words for DNA Computers and Nanostructures with Consideration of Hybridization Kinetics. DNA Comput. 4848, 119-129 (2008).
[3] Sobczak, J. P., Martin, T. G., Gerling, T., Dietz, H. Rapid folding of DNA into nanoscale shapes at constant temperature. Science 338, 1458-1461 (2012).
[4] Douglas, S. M., Dietz, H., Liedl, T., Högberg, B., Graf, F., Shih, W. M. Self-assembly of DNA into nanoscale three-dimensional shapes. Nature 459, 414-418 (2009).